千空を見かけたので声をかけようとしたら、何やら女の子達に囲まれていた。まさか口説かれている、私というものがありながら!?なんて強気でいられる立場でもない。
彼の隣にいても、扱いは他の人と大差はない。そういう所を好きになっちゃった私の負けである。
木の影に隠れながら様子をうかがっていると、女の子達の口から飛び出たのはなんと私の名前だった。

「二人でゆっくり話したの、いつ?」
「仕事と私どっちが〜なんて言わないけど、ちゃんと名前のことも見てあげなよ」

千空が説教をされている。彼は案の定「あ゛!?」なんて女の子に向かって出すにしてはアウトな声を出した。
みんな優しいっ!私と千空のことそんなに気にかけてくれてたなんて!じゃなくて、千空にはそういうものは全くと言って良いほど通用しない。
気持ちはとっても嬉しいけど余計なお世話だと一蹴されて終わりだ。大丈夫、千空のそういう性質は昔から散々この身に叩き込まれてるし、彼もそれを理解している。

「あー分かった分かった、相手してやりゃ満足なんだろ」
「いや私達じゃなくて名前がどう思うかなんですけど!?」

千空が女の子のあしらい方を覚えた!
と思ったのもつかの間、火に油を注いでるようにしか見えない。もうなんでも良いからイチャイチャしろだとか恐ろしい言葉まで聞こえたような。
こうなったら本人登場で、私達は大丈夫ですみんな応援ありがとうまた明日!の流れに持ち込むしかない。
こんな所に飛び込むなんて勇気がいるけれど、いつも元気な大樹みたいにすればできるはずだ。

「み、皆さ「だーから分かったっつうの、テメーらが寝静まったら引くほど構い倒してやっから安心しやがれ」」
「えっ」
「えっ……」
「実に良いタイミングでご本人様も出てきたしな」

やっと逃げられると顔に書いてある。そのまま私の手首を掴んで千空は歩きだした。
後ろから聞こえた「頑張れ!」には手を振って応えた。

「あの千空、さっきの……」
「名前、あとでそっち行って良いか」
「……う、うん!」

その場しのぎのでまかせじゃなかったんだ。
わーどうしよう。久しぶりに千空とゆっくりできる。
でも、さっき千空は「引くほど」って言ったような。千空の顔を恐る恐る見上げると、ニヤリと効果音が聞こえてきそうな怪しい笑みを浮かべていた。
嫌な予感がする。

その後、たっぷり科学の唆る話を聞かされまくってやつれた私とお元気いっぱいな千空を見て、皆色々と察してしまったんだとか。



2020.10.14


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